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記事: 伊豆の長八美術館と外尾悦郎の石彫刻|漆喰芸術の殿堂と、サグラダ・ファミリアの彫刻家が松崎に遺したもの

伊豆の長八美術館と外尾悦郎の石彫刻|漆喰芸術の殿堂と、サグラダ・ファミリアの彫刻家が松崎に遺したもの

伊豆の長八美術館と外尾悦郎の石彫刻|漆喰芸術の殿堂と、サグラダ・ファミリアの彫刻家が松崎に遺したもの

この夏、松崎で「本物の手仕事」に出会う

夏の西伊豆・松崎町へお越しの皆さま、そして2026年8月1日に飛鳥Ⅱでご入港の皆さまへ。

西伊豆・松崎は、なまこ壁の街並みと青く美しい海が残る、人口5,400人ほどの小さな町です。 この町の中心に、白い壁がひときわ目を引く美術館があります。 〝漆喰芸術の殿堂〟と呼ばれる「伊豆の長八美術館」です。

そして美術館に隣接するカサ・エストレリータには、意外な出会いが待っています。 スペイン・バルセロナのサグラダ・ファミリア教会の彫刻家として世界的に知られる 外尾悦郎氏の石彫刻が、この小さな町に静かに立っているのです。 今回は、夏の松崎散策におすすめのこの2つの見どころと、 美術館から歩いて行けるお土産処をご案内します。

伊豆の長八美術館——名工・入江長八と漆喰鏝絵の世界

入江長八(1815〜1889)は、松崎が生んだ左官の名工です。 江戸に出て狩野派の絵を学び、左官の鏝(こて)一本で漆喰に絵を描く「鏝絵(こてえ)」を 独自の芸術の域にまで高めました。漆喰を薄く盛り上げ、彩色を施したその作品は、 絵画と彫刻の間を行き来するような立体感をもち、「伊豆の長八」の名は江戸の街にも轟いたと伝わります。

長八美術館には、その長八の作品が約50点収蔵・展示されています。 掛け軸に描かれた迫力の「青不動明王」、素焼きの土鍋に静御前を描いた「ホーロクの静御前」など、 間近で見ると「これが漆喰なのか」と息をのむ細密さです。 繊細な鏝さばきを、ぜひ時間をかけてじっくり鑑賞してみてください。

建物そのものが「現代左官の粋」 昭和59年(1984年)開館の館は、斬新な建築デザインで優れた建築に贈られる「吉田五十八賞」を受賞。 施工には日本左官業組合連合会が全国から名工を総動員し、 なまこ壁、土佐漆喰、白壁——現代左官技術の粋を集めて造り上げられました。 長八の作品だけでなく、建物自体が左官職人たちの技の競演です。

美術館前には、左官名工の魂である鏝を守る日本唯一の「鏝塚」もあります。 伝統的左官技法で建てられた高さ5mの円筒の塔で、外壁のなまこ壁や漆喰鏝絵の装飾も見ごたえがあります。 入館の際にぜひ足を止めてみてください。

伊豆の長八美術館 ご利用案内

  • 開館時間:9:00〜17:00(休館日:木曜日)
  • 入館料:大人500円(中学生以下無料)
  • 所在地:静岡県賀茂郡松崎町松崎23(美術館前に無料駐車場あり)
  • 電話:0558-42-2540
  • 港・なまこ壁通りから徒歩圏内。夏の暑い日中も、館内でゆっくり涼みながら鑑賞できます。

外尾悦郎——サグラダ・ファミリアの彫刻家が、松崎に遺した石の塔

外尾悦郎氏は、アントニオ・ガウディの未完の代表作、バルセロナのサグラダ・ファミリア教会の 彫刻に長年携わってきた彫刻家です。「生誕の門(生誕のファサード)」の彫刻群を手がけたことで 世界的に知られ、日本人として異国の聖堂に生涯を捧げるその姿は、多くのメディアでも紹介されてきました。

その外尾氏の作品が、なぜ松崎に?——実は氏は昭和61年(1986年)の4月から8月にかけて日本に一時帰国し、 この松崎の地で石の塔を彫り上げました。それが、長八美術館に隣接する民芸館「カサ・エストレリータ」の空中庭園に立つ 「ナシミエント」です。

石彫刻

ナシミエント——スペイン語で「生誕」

高さ4.9m、最大直径1.1m。稲田石(白花崗岩)を彫り上げた塔は、 タブノキの新芽が明るく伸びてゆく様がモデルです。 ツボミ、ガク、そしてその中から伸びてゆく葉——石でありながら、 今まさに芽吹こうとする植物の生命力が刻まれています。

「ナシミエント」とは、外尾氏が生涯をかけて彫り続ける「生誕の門」と同じ、 生誕を意味する言葉。〝花とロマンの里〟松崎のロマンの誕生を象徴し、 この町から世界へ文化を発信していこうという町民の誇りが込められています。 バルセロナと松崎——2つの町が、一人の彫刻家の手を通じて「生誕」という言葉でつながっているのです。

石彫刻

老人と子供——「知恵と生命」のモニュメント

町内にはもう一つ、外尾氏の作品があります。昭和61年12月、「潤いのある町づくり」優良地方公共団体として 自治大臣賞を受賞したことを記念して建てられたモニュメント「老人と子供」です。 主題は「知恵と生命」。松崎町の飛躍と発展への願いが込められています。 美術館とあわせて、彫刻をたどる散策もおすすめです。

バルセロナと松崎——ふたつの「生誕」を見比べる

「サグラダ・ファミリアと松崎に、似た彫刻があるの?」——実は、デザインの系譜がはっきりとつながっています。 外尾氏の手とガウディの思想を軸に、バルセロナと松崎の作品を並べて見てみましょう。

対比① 塔の頂に宿る、植物の生命

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サグラダ・ファミリア 外尾悦郎作・尖塔を飾る果実の彫刻(トレンカディス)

写真: Sagrada Família (oficial), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

尖塔のフルーツバスケット

生誕のファサードの尖塔の先端を、色鮮やかな果実の彫刻が飾ります。 東側には春の果実、西側には秋の果実。これも外尾氏が手がけた仕事です。 天に向かう塔のいちばん高いところに、大地の実りが捧げられています。

Matsuzaki

 ナシミエントの塔(松崎町・民芸館屋上庭園)

ナシミエントの塔

白い花崗岩の塔の頂で、タブノキの新芽が今まさにほどけようとしています。 ツボミ、ガク、その中から伸びる葉。 「塔の頂に植物の生命を宿らせる」——バルセロナの尖塔と同じ手、同じ構図です。

対比② 「生誕」という、同じ名前

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サグラダ・ファミリア 生誕のファサード全景

写真: © José Luiz Bernardes Ribeiro / CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

生誕の門(生誕のファサード)

キリストの誕生を主題とし、外尾氏が「歌う天使たち」の彫刻群や扉を手がけた、 サグラダ・ファミリアの代表的な門。2005年、世界遺産に登録されました。

Matsuzaki

ナシミエント=スペイン語で生誕

ナシミエント=スペイン語で「生誕」

外尾氏が生涯をかけて彫り続ける門と、松崎の塔。 名付けられたのは同じ「生誕」という言葉でした。 〝花とロマンの里〟松崎の、ロマンの誕生を象徴しています。

対比③ 自然を観察し、石に写す

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ガウディは、バルセロナの植物を観察した

「この扉は、植物や昆虫など自然の生命で満たす」——ガウディの遺志に沿って、 外尾氏は生誕の門の扉にバラの葉や蔦を彫り込みました。 モデルは、ガウディが愛したバルセロナ近郊の山々に実際に生える植物です。

Matsuzaki

外尾は、日本のタブノキを観察した

「一つの葉を出すために、他のものは全て犠牲になり、そこから素晴らしいエネルギーが生まれている」。 外尾氏はタブノキの芽吹きをじっと観察し、その生命の順序を石に刻みました。 ガウディ流「自然に学ぶ」造形を、日本の樹木で実践した作品なのです。

サグラダ・ファミリア(バルセロナ) ナシミエントの塔(松崎)
場所 生誕のファサード・尖塔 民芸館屋上庭園(長八美術館隣接)
モチーフ 果実(東=春、西=秋)、バラの葉、蔦 タブノキの新芽(ツボミ・ガク・葉)
象徴 実り——大地の恵みを天に捧げる 芽吹き——町の未来と文化の誕生
制作 1978年〜現在も継続中 1986年4月〜8月(一時帰国中に制作)

バルセロナには「実り」を、松崎には「芽吹き」を。 ひとりの彫刻家が、地球の両側で対になる生命のかたちを彫っている—— そう思って見上げると、この白い塔はもう、ただの郷土のモニュメントではありません。 バルセロナまで行かなくても、サグラダ・ファミリアの彫刻家の「本物」に触れられる場所。 それが松崎なのです。

鏝の名工と、石の彫刻家 漆喰に生命を吹き込んだ入江長八と、石に生命を宿す外尾悦郎。 時代も素材も異なる2人の手仕事が、この小さな町で隣り合っている—— それが長八美術館という場所の、いちばんの贅沢かもしれません。 素材と向き合い続ける職人の技を敬うこの町の気風は、今も松崎の作り手たちに受け継がれています。

美術館のあとは——歩いてすぐ、なまこ壁通りと「蔵ら」へ

長八美術館を出たら、そのまま江戸・明治の面影が残るなまこ壁通りへ。 黒と白のコントラストが美しい蔵や商家が残る街並みは、 どこを切り取っても絵になります。長八が生きた時代の松崎を感じながら、 ゆっくり歩いてみてください。

散策の締めくくりにおすすめしたいのが、なまこ壁通りそばの古民家 「伊豆松崎 であい村 蔵ら」です。 古民家を改修したお店で、松崎の元気なお母さんたちが笑顔で迎えてくれる、町の人々の温もりに出会える場所。 正絹の着物生地を一点ずつリメークしたドール着物や、伊豆ハンドメイド作家の作品など、ここでしか出会えない手仕事が並びます。

旅の記念に——蔵ら内「BLOOM MATSUZAKI」で松崎の手仕事を

その蔵らの中にあるのが、松崎のクラフト&ギフトショップ「BLOOM MATSUZAKI」です。長八や外尾氏の作品に触れたあとは、現代の松崎に生きる作り手たちの一点物を、 ぜひ手に取ってみてください。伊豆の木を削り出した器や道具、炎が生み出すガラスのアクセサリー、 雲見の海のシーグラスをマクラメ編みで包んだアクセサリー——大量生産では味わえない、この町の手仕事が揃います。

Matsuzaki Craft & Gift Shop

BLOOM MATSUZAKI

蔵ら内 / なまこ壁通りそば・長八美術館から徒歩すぐ

長八の名を冠したお菓子も——桜葉スイーツ

松崎は全国の桜葉のおよそ7割を生産する、日本一の桜葉の里でもあります。 明治6年創業の老舗・永楽堂の「長八さくらもち」は、その名の通り名工・入江長八の名を冠した銘菓。 美術館で長八の技に触れたあとの手土産に、これほどふさわしいお菓子はありません。 常温保存できる橋本屋の桜葉クッキーは持ち歩きにも船内へのお持ち帰りにも安心。 要冷蔵のお品は、ご帰宅後にオンラインショップからご自宅へお届けすることもできます。

BLOOM MATSUZAKI オンラインショップ

松崎の工芸品・桜葉スイーツ・農産物を全国にお届けします。

工芸品を見る → 桜葉スイーツを見る →

夏の松崎、半日散策モデルコース

港・市街地から歩いてまわれます

  • 午前:伊豆の長八美術館(鑑賞の目安60〜90分)+ 鏝塚・ナシミエント見学
  • :なまこ壁通りを散策しながら市街地へ。地魚や地元野菜の食事処でランチ
  • 午後:蔵らでひと休み & BLOOM MATSUZAKIでお土産選び
  • 飛鳥Ⅱでお越しの方は、帰船時間から逆算して余裕をもったプランをおすすめします

漆喰の名工が生まれ、サグラダ・ファミリアの彫刻家が石を刻んだ町、松崎。 美術館で本物の手仕事に触れたあとの街歩きは、きっといつもと違って見えるはずです。 この夏の旅の一ページに、どうぞ松崎時間をお楽しみ下さい。

※開館時間・休館日・入館料は変更となる場合があります。お出かけ前に各施設へご確認ください。
※蔵ら・BLOOM MATSUZAKIの営業状況は、Instagramまたはお電話にてご確認いただくことをおすすめします。

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飛鳥Ⅱで松崎へ|なまこ壁の港町、職人のクラフトと伊豆の恵み

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